南斗十人組手

南斗十人組手とは、南斗の拳士10人を相手に行う組手です。

10人を相手にするといっても、10人まとめて相手にするのではなく、1人ずつやっつけていくスタイルです。

北斗の拳の第85話「めざめる仁星!の巻」では、幼い頃のケンシロウがこの南斗十人組手に挑む場面が描かれています。

 

このときケンシロウは、ラオウ、サウザー、シュウといった錚々たる使い手らが見守る中、南斗の拳士たちを9人目まで順調にやっつけていきました。

しかし、あと1人というところで、突如シュウが10人目の相手役に名乗りを上げ、ケンシロウはこのシュウにやっつけられてしまいます。

 

サウザーの話によれば、北斗と南斗の他流試合では、敗者は生きて帰れない掟とのことです。

そしてこのときもサウザーは、この掟に従い、南斗の拳士らに命じて、シュウにやっつけられたケンシロウを殺そうとします。

なお、その掟が南斗の拳士らにも適用されるのであれば、ケンシロウにやっつけられた9人の南斗の拳士たちも、当然その後ラオウか誰かによって殺されて然るべきでしょうが、そのような描写は出てきません。

 

サウザーにケンシロウを殺すよう命じられた南斗の拳士らが(自慢の拳ではなく槍を使って)幼いケンシロウを殺そうとしますが、シュウがそれを止めます。

自ら10人目に名乗りを上げ、ケンシロウをやっつけておきながら、ケンシロウの命を救いたいというのです。

サウザーから「掟は掟だぞ」と咎められたシュウは、「ただで命をくれとはいわぬ」、「おれの光をくれてやる」と言って、自分の両眼をつぶし、ケンシロウの命を救います。

 

何度読んでもちょっと意味がよくわからない行動なのですが、それはさておき、その後大人になったケンシロウはシュウと再会します。

しかし、あろうことかケンシロウは、その男が命の恩人のシュウであることにまったく気付きません。

顔も、髪型も、服のセンスも、そして目の傷さえも、昔とまったく同じであるにもかかわらずです。

それどころか、ケンシロウはシュウをボコボコにしてしまいます。先に攻撃を仕掛けたのはシュウではありますが。

 

なぜこのときシュウがケンシロウに攻撃を仕掛けたのかというと、シュウ自身は、ケンシロウの力を試すためであったかのように説明しています。

しかし、実際のところは、両眼を犠牲にして命を救ってあげたケンシロウが自分のことをまったく覚えていなかったことに怒ったのだと考えられます。

仁星のシュウですから、仁義を欠いたケンシロウの態度が許せなかったのでしょう。

そこでシュウは、昔勝ったことのあるケンシロウに思い知らせてやろうと攻撃を仕掛けたものの、大人になったケンシロウに返り討ちにされたため、格好をつけて、ケンシロウの力を試した的な言い訳をしたのだと思います。

 

このときの二人の攻防ですが、まずシュウは、いきなりハンマーでケンシロウを殴りつけようとします。

しかし、ケンシロウはこのハンマーを難なく破壊してしまいます。

そして、お互い殴ったり蹴ったりした後、ケンシロウは、北斗神拳奥義水影心によりコピーした南斗聖拳でシュウを徐々に追い詰めます。

そのときのケンシロウの言動が問題なのですが、ケンシロウは防戦一方のシュウに対し、「地面が裂ける音が目の見えぬおまえには恐怖であろう」と吐き捨てるのです。

シュウも、自分の両眼を犠牲にして命を救ってあげたケンシロウからそのような暴言を吐かれたのですから、本当に可哀そうです。

 

最終的にケンシロウは、「やはりあなたはあのときの」と言ってシュウのことを思い出すのですが、この「やはり」という言葉に違和感を感じずにはいられません。

何が「やはり」なのでしょうか。

シュウをボコボコにしているときに、「あれ?もしかして?シュウ?」とでも思っていたのでしょうか。

なかば思い出していながら、シュウのことを「目の見えぬおまえ」呼ばわりしたのでしょうか。

もしそうだとすれば、さすがに血も涙もありません。

 

ちなみに、この南斗十人組手が行われたのは、世界が核の炎に包まれる前であり、まだ日本は法治国家だったはずです。

そうだとすると、この南斗十人組手に参加した者やこれに立ち会った者は、決闘罪により罰せられる可能性があります。

 

交通事故の過失割合

交通事故が起こった際、「過失割合」というものが問題になることがあります。

例えば、自動車同士の事故が起こった場合、どちらか一方の運転手が全面的に悪い場合もあれば、どちらの運転手にもそれなりの落ち度があるような場合もあります。

どちらの当事者にどの程度の落ち度があるのかを示すのが「過失割合」です。

 

過失割合は、事故の態様によってある程度定型化されています。

 

1番わかりやすいのが、後方からの追突事故。いわゆる「カマを掘った」とか、「カマを掘られた」とか表現される事故です。

この態様の事故では、基本的には、追突した側の運転手(A)の過失が10で、追突された側の運転手(B)の過失が0になるとされています。

もっとも、あくまでこれは基本形についての話であって、すべての追突事故でそうなるかというと、決してそうではありません。

個別具体的な事情を踏まえて、過失割合の調整が行われる場合もあります。

例えば、Bが駐停車禁止の場所で停まっていた場合は、Bの過失が1増えて、A:Bの過失割合は9:1に修正されます。

また、Bがきちんと左側に車を停めていなかった等、駐停車方法が不適切な場合などは、Bの過失は1~2増えます。

ですので、駐停車禁止の場所で停まっていて、かつ、駐停車の方法が不適切な場合は、A:Bの過失割合は8:2ないし7:3に修正されます。

 

ほかに、よく見られる自動車同士の事故の類型としては、交差点における直進と右折の衝突事故があります。より正確に言うと、交差点に青信号で進入し、そのまま直進しようとした自動車と、反対側から青信号で進入し、右折しようとした自動車との衝突事故です。

この場合は、基本的には、直進した側の運転手(A)の過失が2で、右折した側の運転手(B)の過失が8になるとされています。

そして、ここでも具体的な事情を踏まえて過失割合の調整が行われることがあります。

例えば、Bが右折禁止の場所で右折した場合や、ウィンカーを出していなかった場合などは、それぞれBの過失は1増えます。その結果、A:Bの過失割合は、1:9に修正されます。

右折禁止で、かつ、ウィンカーを出していなかった場合は、Bの過失は2増えるわけですから、この場合のA:Bの過失割合は0:10になります。

これに対し、衝突の時点でBの右折が既に完了していた場合(Bの自動車の向きが完全に右折方向に向いていた場合)や、Aに時速15㎞以上の速度超過があった場合などは、それぞれAの過失が1増えます。

そうすると、例えば、Aの側には時速15㎞以上の速度超過があり、他方、Bの側がウィンカーを出していなかった場合は、プラマイ0で、結局A:Bの過失割合は2:8になります。

 

以上のような原則をきちんと知っていないと、事故を起こしてしまったときや事故に遭ってしまったときに、相手にうまいこと言いくるめられて、本来負うべき以上の責任を負わされることになりかねません。

交通事故を起こしてしまったときや、交通事故に遭ってしまったときは、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。

 

 

酒気帯び運転と酒酔い運転

飲酒運転が法律で禁止されているのは、みなさん当然ご存じのことだと思います。
 
たまに、「少しなら大丈夫」とか、「一定量のアルコールが出なければ運転しても問題ない」などと言う人がいますが、これは厳密には間違いです。
 
なぜ、このような誤解がされているのでしょうか。
その原因は、飲酒運転に対する罰則の規定の仕方と関係があると思われます。
 
 
まず、「飲酒運転」という言葉は、法律上の用語ではありません
道路交通法では、「酒気帯び運転」という用語が使われています。
 
すなわち、道路交通法65条1項は、「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」と規定しています。
酒気を帯びて」とは、「社会通念上酒気を帯びているといわれる状態」とか、「その者が、通常の状態で身体に保有する程度以上にアルコールを保有している状態」などと説明されています(なんかわかったような、わかんないような・・・)。
いずれにしても、少しなら大丈夫とか、一定量のアルコールが出なければ問題ない、などとは書かれていません。
酒気を帯びて運転するな、としか書かれていないのですから、酒気を帯びて運転してはいけないのです。
 
 
もっとも、酒気を帯びて運転することがすべて処罰の対象になるかというと、そうではありません。
酒気帯び運転に対する罰則として道路交通法が規定しているのは、大きくわけて次の2つです。
 
1つは、道路交通法117条の2の2の3号です。
この条項は、酒気帯び運転をした者で、運転当時「政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態」にあった者は、3年以下の懲役または50万以下の罰金に処する、と定めています。
政令で定める程度」とは、呼気で計測する場合は、呼気1リットルにつき0.15ミリグラムです(ビール中瓶1本くらいと言われています)。
つまり、逆に言えば、呼気1リットルにつき0.15ミリグラムのアルコールが検出されなければ、たとえ酒気を帯びた状態で運転していたとしても、この規定により処罰されることはありません。
禁止はされているが処罰はされない、ということです。
 
そして、もう1つは、道路交通法117条の2の1号です。
この条項は、酒気帯び運転をした者で、運転当時「酒に酔った状態」にあった者は、5年以下の懲役または100万円以下の罰金に処する、と定めています。
酒に酔った状態」とは、「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」のことをいいます。
この運転は「酒酔い運転」などと言われています。
 
 
以上からわかるように、酒気を帯びて運転することは、法律上禁止されてはいますが、そのうち道路交通法で処罰の対象となるのは、
一定程度以上(呼気の場合、呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上)のアルコールを保有する状態
酒に酔った状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態)
のいずれかであった場合のみ、ということです。
 
冒頭でも書きましたが、「一定量のアルコールが出なければ運転しても問題ない」というのは、誤解です。
法律上禁止されている行為をしているわけですから、問題はあります。
法律上問題はあるが、処罰はされない(ので事実上問題ない)、ということです。
いや、「処罰はされない」というのも、厳密に言えば正しくありません。
なぜなら、たとえ呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールが検出されなかったとしても、酒に酔った状態であれば、処罰されるからです。
0.1ミリグラムしかなかろうと、0.05ミリグラムしかなかろうと、その人が酒にすこぶる弱く、それだけの酒でも酔っぱらった状態になってしまっているのであれば、酒酔い運転として処罰されてしまうのです。
ですので、正確に言うのであれば、「一定量のアルコールが出ず、かつ、酒に酔った状態でなければ、運転しても処罰はされない(ので事実上問題ない)」ということになるでしょうか。
 
 
なお、酒気帯び運転に対する罰則規定では、「軽車両を除く」とされていますので、自転車は対象外です。
ですので、自転車を運転する際は、酒に酔ってさえいなければ、いくら飲んでいても道路交通法で処罰されることはない、ということになるのかと思います(決して酒気帯び運転を推奨する趣旨ではありません)。
 

違法な抱き合わせ販売

先日、これまでなかなか入手できなかった任天堂switchをやっとのことで手に入れることができました。
子供たちが、クリスマスプレゼントにswitchを強く所望していたため、なんとかしてクリスマスまでには入手しなくてはと思っていましたが、どうにか間に合わせることができました。

今回switchを購入したお店は、とある家電量販店です。
それなりに有名な家電量販店で、家の近くに新しい店舗が開店するというので、特にswitchの在庫があるという事前の情報はありませんでしたが、もしかしたらあるかもと思い、開店時間の午前9時に行ってみました(平日でしたので、午前中お休みして)。

入店してすぐ近くにいた店員さんに「switchありますか」と尋ねると、「ちょっと確認してみます」と言われ、レジまで案内されました。
これはもしや、とドキドキしながら店員さんについていくと、私より先に入店した女性のお客さんがちょうどレジでswitchを買っているところでした。
店員さんがレジの奥の方に入っていき、ほかの店員さんとゴニョゴニョ話した後に再び私の方に来て、「スーパーマリオオデッセイのソフトとセットになったものであればありますが、そちらでよろしいですか。」と聞いてきました。
そういえば、さっきの女性のお客さんが買っていたのも、スーパーマリオオデッセイとのセットのようでした。
私としては、もともとスーパーマリオオデッセイは買うつもりでしたので、「じゃあ、そのセットでお願いします!」と即答しました。

ちなみに、この日のこのお店のswitchの在庫は、スーパーマリオオデッセイセットが2台あっただけだったようです。
私のすぐあとに入店したおばあさんは、私の真横で、別の店員さんに「switchは今ちょうど売り切れてしまいました」と言われ、ものすごい肩を落としていました(気まずい)。

その後店員さんから、「ご購入いただくには当店のモバイル会員になっていただく必要があります」などと言われ、それも「はいはい」と二つ返事で了承します。
そのようなやり取りが続いていたところ、店員さんから、「それから、switchが現在大変品薄の状態ですので、有料の延長保証にご加入いただいた方に優先的にお売りしております」などと言われました。

私「有料って、いくらですか?」
店員さん「5,000円です」
私「は?」
店員さん「品薄ですので」
私「いやいやいや、さすがに高すぎでしょ。入らないとダメなの?」
店員さん「そのように皆様にお願いしております」
私「お願いだったら断るけど」
店員さん「まあ、その・・・」
私「つか、それって独禁法で禁止されてる抱き合わせ販売ですよね(笑)」
店員さん「すみません、ちょっとそこはわかりませんが・・・(笑)。ご加入いただくのは難しいですか?」
私「難しいっつーか、入りません(笑)」
店員さん「では、ご加入はされないということで・・・(笑)」

結果、有料の延長保証には入らずに、無事switchを購入することができました。

さて、独占禁止法では、事業者は「不公正な取引方法」を用いてはならないと定められています(同法19条、2条9項)。
そして、同法に関する公正取引委員会告示では、「不公正な取引方法」の1つとして、「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること」が挙げられています(同告示10項)。
これがいわゆる「抱き合わせ販売」です。

例えば、X店というお店に、超人気でなかなか手に入らないAという商品と、全然人気がなく在庫が余りまくってるBという商品があったとします。
この状況でX店が、Bを売るための方策として、「AとBはセットで売ります。Aだけでは売りません」という売り方をした場合、Aを買いたいお客さんは、本来であれば買う必要のないBも泣く泣く買わされることになります。
このような「抱き合わせ販売」は、公正な競争を阻害するおそれがあるとして、独占禁止法で禁止されるのです。

私がswitchを購入した家電量販店も、switchを購入しようとしている人に対して、同時に有料延長保証というサービスを購入させようとしたわけですから、このような売り方は違法な「抱き合わせ販売」にあたるのです。

さて、そうすると、そもそも
任天堂さんがswitchとスーパーマリオオデッセイのソフトをセットで販売していること自体が「抱き合わせ販売」にあたるのではないでしょうか。

これは基本的には「抱き合わせ販売」にあたりません。
というのも、任天堂さんはswitchの本体を単体でも販売しており、switchの本体を買いたい人は
、本体を単体で購入するか、スーパーマリオオデッセイとセットで購入するかを自由に選べるからです。
スーパーマリオオデッセイのソフトがいらないと思う人は、ソフトとのセットではなく単体で本体を購入することができるので、公正な競争を阻害することにはならないのです。

ただ、今回のように、switchの品薄状態が続く中で、店頭にスーパーマリオオデッセイとのセットしか置いていないような場合、どうしてもswitchを買いたい人は、たとえスーパーマリオオデッセイのソフトがいらなくても、事実上このセットを買わざるを得ません。そう考えると、今後もこのような状態が続くようであれば、switchのセット販売もまったく問題がないとまでは言えなくなるのでは、と思う今日この頃です(セットを買わずに本体単体が入荷されるのを待てばいい、と言われればそれまでかもしれませんが)。

ちなみに、Aという商品とBという商品をセットで売る場合でも、この2つの商品の間に機能上密接な補完関係があると認められる場合には、公正な競争を阻害するおそれはないとして、「抱き合わせ販売」にはあたらないと考えられています。
具体的には、レンタカーと自動車保険のセットがその例の1つとして挙げられています(但し、このレンタカーと自動車保険のセットについては「抱き合わせ販売」にあたるという見解もあるようです)。
 

失業保険金と退職理由

顧問先である会社の総務部や人事部の担当者から、「今度退職する従業員が、会社都合で離職票を出してほしい、と言ってきているが、どう対応すればよいか」などといった相談を受けることがたまにあります。
離職票とは、正式には「雇用保険被保険者離職票」という名称の書面のことです。
従業員が会社を退職する際、会社は、この離職票に、退職する従業員に対する直近の賃金支払状況やその従業員の退職理由などを記載して、これを従業員に交付しなければなりません。
会社を退職した従業員は、一定の要件を満たせば国から失業保険金の給付を受けることができますが、その申請の際、会社から交付された離職票をハローワークに提出する必要があります。
この離職票について、「自己都合」ではなく「会社都合」で発行してほしいという従業員がたまにいるのです。
 
一般に、「会社都合」の退職とは、会社の倒産にともなって職を失う場合や、会社からリストラされた場合、会社から退職勧奨を受けて辞表を提出した場合などを指します。
これに対し、「自己都合」の退職とは、独立開業や転職の準備などのために会社を辞める場合や、家族の事情で仕事を続けることができなくなった場合など、文字通り従業員の都合で退職する場合などを指します。
 
退職する従業員が、「会社都合」での離職票の発行を求める理由は、その従業員が、「自己都合で退職するよりも会社都合で退職した方が失業保険金受給の面で有利である」と考えているからだと思われます。
この考えは、半分は正解ですが、半分は間違っています。
 
会社を辞めた人は、国から失業保険金の給付を受けることができますが、その受け取り方は大きく分けて2種類あります。
それは、①正当な理由なく自己の都合で退職した場合と、②そうでない理由で退職した場合、の2種類です。
どう違うかというと、①正当な理由なく自己の都合で退職した場合の失業保険と比べて、②そうでない理由で退職した場合の方が、失業保険金の受給開始時期が早く、受給期間も長く、受給額の上限額も大きいのです。
そして、②のそうでない理由で退職した場合の退職とは、会社が倒産した場合や、会社にリストラされた場合など、世間一般で言うところの「会社都合」の退職がその典型です。
そのため、「自己都合で退職するよりも会社都合で退職した方が失業保険金給付の面で有利である」といった考え方が浸透しているのです。
 
しかし、いわゆる自己都合退職がすべて①の「正当な理由なく自己の都合で退職した場合」になるかというと、必ずしもそうとは限りません。
自己都合で退職した場合であっても、退職に正当な理由があるのであれば、①の「正当な理由なく自己の都合で退職した場合」にはあたらず、失業保険金の給付を受ける際に有利な取扱いがなされるのです。
具体的には、体力不足・心身障害等のため退職した場合や、家族の介護のために退職を余儀なくされた場合などです。
この場合は、自己都合か会社都合かのどちらかと言えば自己都合でしょうが、正当な理由がありますので、②の「そうでない理由で退職した場合」(つまり、①の「正当な理由なく自己の都合退職した場合」ではない場合)の条件で失業保険金を受給することができます。
なお、厳密に言えば、②の「そうでない理由で退職した場合」に分類されるものでも、具体的な退職理由によっては、受給期間に差が生じる場合もありますが、ここでは説明を割愛します。
 
そもそも、「会社都合で離職票を出してほしい」と言われたところで、離職票は、「自己都合」と「会社都合」のどちらかにチェックをつけるような単純な体裁にはなっていません。
具体的な退職理由の例がいくつも列挙されている中から、事案に該当する退職理由を選んでチェックしなければなりません。
典型的な会社都合の退職理由としては「倒産手続開始、手形取引停止による離職」とか「解雇」などが挙げられていますが、会社も当然虚偽の事実を書くわけにはいきませんし、会社が虚偽の離職票を発行したところで、ハローワークが事実関係を審査しますので、会社の言い分がそのまま通るわけでもないのです。
 
会社を退職予定の従業員から冒頭のような要求があった場合、離職票の書式を示しながら、会社としては事実と異なる記載はできないこと、そして、自己都合でも正当な理由があれば失業保険金の受給に関して有利な取扱いがなされることを説明することが重要です。
決して、失業保険金の不正受給を手助けするような事実と異なる内容の離職票を出してはいけません。
 

当日に有給を届け出ることは可能か

従業員が病気で会社を休んだ際、事前に有給の届出があったわけではないにもかかわらず、会社がこの病欠を有給として取り扱うことが比較的よくあるのではないかと思います。
会社からすれば、別の日に有給を使って休まれるくらいなら、このときの病欠を有給として取り扱って有給を1日分消化してもらった方がよい、という考えがあります。
他方、欠勤した従業員にとっても、(別の日に有給休暇を取得したかったのに、と思うこともなくはないでしょうが)全部消化できるかどうかがわからない有給を確実に1日分使うことができ、しかもそれによって病欠を帳消しにすることができるのであれば、悪い話ではないでしょう。
 
もっとも、このような取扱いは、あくまで会社の同意がなければなりません。
原則は、従業員が有給休暇を取得する際は、事前に会社に届け出なければならないのであって、病欠した後になって、「昨日の病欠を有給にしてください」と事後的に届け出ることは本来は認められません。
なぜなら、会社は、従業員が有給休暇を取得する日や期間について、その時期の変更を求めることができる場合があるからです。
具体的には、従業員がその時期に休暇を取得することが会社の「事業の正常な運営を妨げる」と認められる場合は、会社はその時期には有給を使わないで別の時期に使ってほしい、と主張することができるのです。
従業員が有給休暇を取得する時期を指定する権利を「時季指定権」といい、これに対して会社がその時期を変更する権利を「時季変更権」といいます。
もし従業員が事後的に有給休暇の取得を届け出ることができるとなると、会社が時季変更権を行使する余地がなくなってしまい、会社の権利が不当に害されてしまいます。
会社が時季変更権を行使するかどうかを適切に判断するためには、従業員は少なくとも事前に有給の届出を行わなければならないのです。
 
では、事前でありさえすれば、勤務開始の直前であっても有給の届出はできるのでしょうか。
この問題は、当日の朝に有給の申請をすることは可能か、といった形でよく議論されているところです(ちなみに、有給を「申請」する、という表現は、まるで会社側が有給を認めるか否かを決定できるかように勘違いされる可能性があるので、表現としては不適切だと考えられます。「届出」や「申出」などの表現の方が適切でしょう)。
 
例えば、いわゆる9時5時のオフィスで働いている従業員が、始業時刻直前の午前8時に会社の上司にメールなどで有給休暇の取得を届け出た場合、会社はこの届出を有効なものとして取り扱わなければならないでしょうか。
従業員の有給の届出に対して会社側も時季変更権の行使の要否を判断する時間が必要という観点からすれば、就業規則で始業時刻と終業時刻が定められている場合は、少なくとも休暇取得日の前日の終業時刻前には届け出る必要があると考えるべきでしょう。
ですので、始業時刻が9時と定められている会社において、従業員が当日の午前8時に上司にメールなどで有給の届出をした場合、たとえその上司がメールの内容を確認したとしても、その時点では有効な届出があったとは言えず、事前の届出はなされなかったと評価すべきと考えます(会社側が進んで有給扱いすることは当然禁止されませんが)。
 
これに対して、24時間営業の店舗などに勤務する従業員の場合は、判断が難しいと思われます。
例えば、24時間営業の店舗で勤務する従業員が、午前9時からシフトが入っている日の午前8時に有給を届け出た場合、一応会社の営業時間中に有給休暇取得の届出がなされていますので、事前の申出があったとは言えると考えられます。
しかし、あまりに直前の届出の場合、会社はその有給休暇の取得が「事業の正常な運営を妨げる」かどうかを的確に判断することが困難です。
加えて、「事業の正常な運営を妨げる」場合とは、具体的には、①その労働者の労働が業務の運営に不可欠であり、かつ、②代替要因の確保が困難な場合であると解されているのですが、あまりに直前の届出がなされた場合は、そもそも②の代替要因の確保が困難であることは必至です。
職場の環境や業務の内容などにもよるでしょうが、もともと人員数に余裕をもってシフトが組まれていたとか、業務の性質上1人程度の欠員が出ても問題なく通常通りの営業ができるなどの事情がない限りは、予定されていた定員が欠けたことにより①の要件が認められ、かつ、②の代替要因の確保も困難であるとして、会社は時季変更権を行使して有給休暇取得時期の変更を求めることができるものと考えます。
 
有給休暇を取得する権利が、労働基準法によって認められた、労働者にとって極めて重要な権利であることは言うまでもありません。
労働者がこの権利を行使することを会社が不当に妨害することは当然あってはならないことです。
しかしながら、会社の「時季変更権」もまた労働基準法が認めた、会社にとって極めて重要な権利です。
会社にこのような権利を認めた労働基準法の趣旨を十分に理解した上で、有給休暇の権利が適切に行使されるべきであると考えます。
 

遅刻や欠勤を理由に解雇できるか

遅刻や欠勤などが多いことを理由に労働者を解雇できるでしょうか。

解雇には普通解雇懲戒解雇の2種類がありますが、遅刻・欠勤の頻度や態様があまりにひどければ、いずれの解雇も可能になることがあります(但し、懲戒解雇をする場合は、就業規則に根拠規定がなければなりません)。

 

労働者は、雇用契約に基づき、使用者の指示に従って労務を提供する義務を負っています。

ですので、所定の就業時間中にもかかわらず、遅刻や欠勤などが原因で労務を提供しないことがあれば、それは雇用契約上の債務不履行にあたります。

遅刻・欠勤をした場合、ノーワーク・ノーペイの原則によりその分の賃金が支払われないのが通常ですが、労務を提供していない以上それは当然のことであって、「賃金が支払われていないから労務を提供していなくても債務不履行にはあたらない」ということはできません。

 

遅刻・欠勤が債務不履行にあたるとはいっても、数回遅刻や欠勤をした程度では、解雇することはできません。

遅刻・欠勤の頻度、期間、理由、態様(届出の有無等)、職務への影響、会社の注意・指導状況、反省の程度、改善の見込み等を総合考慮して、解雇もやむなしと評価できるような理由がなければなりません。

 

遅刻・欠勤を繰り返す労働者がいる場合の会社側の対応としては、都度労働者に対して注意するとともに、書面で業務改善命令出勤命令を出すべきです。

また、通常は就業規則に、正当な理由なく遅刻・欠勤を繰り返すことは戒告等の懲戒事由にあたると定められていると思われますので、適宜、そのときの状況に見合った懲戒処分を課した方がよいでしょう。

それでも遅刻・欠勤が続くようであれば、減給・降格などのように徐々に重たい懲戒処分を課していきます。

そうしていくことで、最終的に懲戒解雇できる条件が整うのです。

また、懲戒解雇ができる状況になれば通常は普通解雇することも可能となります(実際、多くの会社の就業規則では、普通解雇事由の1つとして、「懲戒解雇事由があったとき」などの事由が挙げられています)。

 

ちなみに、懲戒解雇ができる状況でも、必ずしも懲戒解雇を選択する必要はなく、普通解雇をすることも可能です。

懲戒解雇は、退職金を支払わなくてよい場合があることや、再就職が難しくなることなど、労働者にとっては普通解雇よりも酷な結果となりがちです。

そのため、懲戒解雇は普通解雇に比べて要件が厳しく、また、厳格な手続きに従って行わなければなりません。

そこで会社としては、労働者側から懲戒解雇の効力を争われるリスクを避けるために、敢えて懲戒解雇を選択せずに、普通解雇をすることがあるのです。

個人的には、横領等の明確な犯罪行為などが原因であれば懲戒解雇もやむを得ないでしょうが、そこまでに至らない場合は普通解雇にとどめるのが無難ではないかと考えています(これも結局ケースバイケースですが)。